旅行の回-前編


8月24日
午後2時36分 
俺は今、電車の中にいる。
 俺の隣にはことり、そして津上がいる。
広樹:「しかし・・・ホントにいいのか?」
津上:「何が?」
 この旅行の発案者は津上であった。
 津上の親戚が旅館をやっているらしく、津上が行くと言い出したので一緒に
 行かせてもらうことになったのだ。
広樹:「お前にとっちゃ帰省みたいなもんだろ?なのにそれを邪魔しちゃぁ・・・。」
津上:「帰省じゃのうて遊びに行く言うたろうが・・・。物覚えの悪いやつめ。」
広樹:「悪かったな。物覚え悪くて。」
 津上は俺のクラスメイトであり、付属の時からの友人(悪友かも知れん)だ。
 気の合う奴ではあるが俺以上に杉並とは気が合うらしい。
 というかこいつも非公式新聞部の一員だと言ってたから気が合うんだろう。
 ・・・まぁ、こいつも杉並と同類というわけだ。
 ちなみにことりはやたら楽しそうである。
広樹:「・・・・・・。」
ことり:「ん?何?」
広樹:「いや、楽しそうだなぁと。」
ことり:「当然だよ〜♪温泉行きたかったし、、旅行に行きたかったし、それに・・・。」
広樹:「それに?」
ことり:「朝倉君と・・・旅行に行きたかったし・・・。」
 顔を赤くしてことりはそう言った。
広樹:「・・・・・・・・・・。」
 その言葉を聞いた俺は黙ってしまった。
 今頃俺の顔も赤くなってるんだろうな・・・。
 それからしばらくして、俺たちは電車からバスへと乗り換えた。

午後2時57分
津上:「はい、到着。」
 バス停からしばらく歩いた場所に旅館は建っていた。
 『旅館 水富士荘』。
 ここが目的地である。
広樹:「さぁて、行きますかね。」
 入り口に向かおうとしたその時・・・。
少女:「はーーじーーめーー!!!」
 入り口(玄関か?)から一人の少女が現れた。
津上:「おう、香織。正月以来だな。」
香織:「いきなりこっちにくるなんて・・・・少しは連絡しなさいよ・・・。」
 香織と呼ばれた少女は息を切らしてそう言った。
津上:「暇だしこの二人が旅行に行きたいって言ってたしな。来てやった。」
広樹:「何だその扱いは・・・。」
 俺たちはなんかのオマケか?というか今お前の目の前にいる少女は何者だ?
 同い年の従姉妹か?空から降ってきた同級生か?風を起こせる幼なじみか?
 それとも極端に運動神経のいい義理の妹か?
 そんな俺のわけわからん考えをよそに二人の会話は続く。
ことり:「えっと・・・つ、津上君、その娘は・・・?」
津上:「お、そういや紹介してなかったな。こいつは香織。俺の従姉妹だ。」
香織:「水富士香織です。」
ことり:「私は白河ことり。で、彼が朝倉広樹君。」
香織:「白河さんと、朝倉さんですね。ようこそ、水富士荘へ。」
 そう言って香織は一礼した。
香織:「始みたいなバカはほっといてどうぞゆっくりしていってください。」
津上:「誰がバカだ!!つーか俺は客じゃないのか!?」
香織:「ささ、こちらです〜。」
津上:「無視かい!!」
ことり:「あはは・・・。」
広樹:「はぁ・・・。」
 なんか・・・かったりぃ一日になりそうだな・・・・・。

午後3時11分
 水富士荘は外観同様に内装も和風だ。
 津上によるとそれが売りらしい。まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。
広樹:「213・・・ここだな。」
 俺とことりが泊まる部屋がこの213号室である。
 俺はその部屋の扉を開けた。
ことり:「うわぁぁ・・・。」
 和室の開け放たれた窓の向こうには蒼い海が輝いていた。
ことり:「いい眺めだねぇ・・・。」
広樹:「そうだな・・・。」
 水平線は果てしなく広がり、波は日の光を浴びて光り輝く。まさに絶景であった。
ことり:「水着、持ってくれくればよかったね・・・。」
広樹:「いいさ、眺めるだけでも・・・。」
 それから数分間、二人だけで水平線を眺め続けた。

午後8時55分
津上:「旅館と言えば・・・これだな。」
広樹:「ああ・・・。」
 俺とことり、津上、香織の4人でやろうとすることは唯一つ。
広樹・津上:「卓球だ!!」
香織:「・・・何腕組んで熱くなってんのよ・・・。」
 そこは気にしないで欲しい。
津上:「じゃあ俺と朝倉からなー。」
 いきなりかよ。
ことり:「朝倉君、がんばってね〜。」
 ・・・がんばるしかないよな。まぁとりあえず、
広樹:「マジメに・・・ってうおっ!!!」
 いきなり正面からのスマッシュ!
 さすがに打てないから思わず避けたぞ!!
広樹:「オイ津上!さすがに今のは反則じゃ・・・。」
津上:「戦場にルールなどないっ!!」
 いつからここは戦場になった!?
広樹:「面白い!なら俺もマジメにはやらないぜ!!」
 こうして、マジメじゃない卓球大会は始まった。

午後9時2分
香織:「さぁて、あたしの出番ね。」
 数回やって香織の番が回ってきた。
広樹:「・・・どうなると思う?」
ことり:「さ、さぁ・・・。」
 香織対津上、普通には終わらない・・・・・・はずだ。
香織:「じゃあ、あたしからでいいわね?」
津上:「おう、どこからでもかかって来るがいい。」
 やけに自信満々の津上。
香織:「そぉ・・・」
 そんな津上への対抗策は・・・。
香織:「れぇっ!!」
 津上と同じ「反則!いきなりスマッシュ戦法」だった!
津上:「お前までその手でくるんかいっ!!」
 打ち返そうとする津上。しかし・・・。
香織:「もう一発!!」
 香織は二発目のスマッシュを打ったのだ!
 しかもその後も何発も何発もスマッシュを打ち続けている!
ことり:「香織ちゃんすごい・・・・。」
広樹:「・・・・・・・。」
 思わず絶句してしまった・・・。
津上:「痛っ!ちょっ香織やめ、あいたっ!さすがにそれは卑怯だろ!!」
香織:「ルールなんてないって言ったのはどこの誰だったかしらぁ!?」
津上:「ヒ、ヒデェ!!」
 いや、お前の自業自得だろ。
香織:「とどめのぉ・・・」
 香織は大きく振りかぶり・・・。
香織:「一撃ぃっ!!」
 そのままラケットを投げた!
 ゴォンッ!!
津上:「ふんぐおっ!!」
 ラケットは津上に顔面に見事命中。
香織:「ぶいっ!!」
 俺たちに向かってVサインをする香織
ことり:「ぶ、ぶい・・・・。」
 控えめにVサインを返すことり。
ことり:「ね、ねえ朝倉君?」
広樹:「ん?」
ことり:「これって・・・勝ちなのかな・・・・?」
広樹:「・・・・立派なKO勝ちだ。」

午後11時34分
 ルール無用の卓球勝負を終え、俺とことりは自分の部屋へ戻っていた。
 ちなみにあれから津上は気絶したままだった。まぁ朝になれば目を覚ましてるだろう。
 たぶん。おそらく。きっと。
 今この部屋に明かりはついていない。窓は開け放たれ、波の音と潮風、そして月明かりが
入ってくる。その窓の向こうをことりが眺めている。
ことり:「・・・・・・。」
広樹:「・・・・・・。」
 外を眺めることりと、ことりを眺める俺。
ことり:「綺麗だなぁ・・・・。」
 月明かりに照らされながらことりが呟いた。
 その時、俺はなにを思ったのかわからない。ただ・・・。
ことり:「うわわ・・・。」
 ことりを後ろから抱きしめていた。
広樹:「わ、悪ぃ・・・・。」
 自分でも何がしたいのかわかっていなかった。
広樹:「なんか・・・ことりが消えちゃいそうでさ・・・。」
ことり:「うふふふ。変な朝倉君。」
 でもことりはそんな俺を嫌わなかった。むしろ受け入れてくれた。
ことり:「私はかぐや姫じゃないんだから。」
広樹:「かぐや姫みたいに綺麗だけどな。」
ことり:「褒めても何も出ませんよ。」
広樹:「わかってる。ただ・・・こうしていたいだけなんだろうな。」
ことり:「うふふ。やっぱり変だぞ、朝倉君。」
広樹:「そうか?」
ことり:「うん。絶対そう♪」
 うわ、あっけらかんと言われたよ。

広樹:「あんまり風に当たると冷えるから・・・・そろそろ寝るか?」
ことり:「ううん。もうちょっとだけ。もうちょっとだけ・・・このままでいたいな。」
広樹:「わかっあ。もうちょっとと言わずずっとこうしててもいいぞ。」
ことり:「うん。ありがと。」
 そうして1日が終わる。
 明日はどうなることかねぇ・・・。



あ・と・が・き
長らくお待たせしました〜。「旅行の回 前編」です。
色々行事とかもあったんでサボリ気味になってました。すみません。
今回の香織に続き、これからもオリキャラを色々出していこうと思います。
次回は「旅行の回 後編」です。今度はサボらないようにします。ホント・・・。

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